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あの「KAGEROU」を読む前に

つい数日前、小説「KAGEROU」を入手した。何、それ?っていう人も多いと思うけれど、昨年末に発刊されたタレントの水嶋ヒロの作家デビュー作だ。持病が原因で芸能界からの引退を決意したミュージシャンの絢香との結婚を発表したかと思えば、突然の所属事務所離脱、俳優業からの撤退、作家活動専念を宣言するなど、世間をお騒がせした後に発刊された作品。しかし世に出るきっかけとなった「ポプラ社」主催の小説大賞受賞が物議を呼んで、さらなる騒動に発展、せっかくの作品にもケチが付いてしまったようだ。受賞を巡るゴタゴタについては後述するが、僕がこの作品を購入したのは、別に水嶋ヒロに興味があったワケでは無いし、話題になったからとりあえず読んでおこうかな、といった理由からでもない。

この作品、いろいろな理由でケチが付いた分、酷評も多かったようだが「偏見を抜きに考えれば、素人が書いたにしてはそこそこの出来」という評価がネット上にいくつか上げられていた。僕はかつて小説家なるものを目指していた時期があって、世間でいう「素人が書いたにしてはそこそこの出来」というのが、どのようなレベルなのか、とても興味があった。普通、書店に並ぶ小説はプロが書いたものであって好みはあれど上出来なのは当たり前だし「素人が書いたにしてはそこそこの出来」という評価の作品を読む機会は意外と少ない。

というわけで一度読んでみたいとは思っていたけれど、お金を払って買うのもどうもな〜という気がしてそのままになっていた。それが数日前、近所の古本屋で見つけて、値段もかなり安くなっていたからつい購入となった次第。実は今回のブログを書き込むまでに本を読んでおくつもりだったのだが、いろいろあってまだ読めていない。だから感想を書く訳にはいかないのだ。まあ、感想はまたの機会に、ということで。

さて、前述の「ポプラ社」小説大賞の受賞のこと。簡単に言うと、水嶋ヒロは自身の名前を隠して作品を応募、1200近い作品の中から大賞に決まったのだが「ポプラ社」側は受賞作が水嶋ヒロの作品とは知らなかった、というのである。これに対して「どう考えても茶番」「出来レース」、はてはゴーストライター説まで飛び出して、水嶋ヒロと「ポプラ社」には猛烈なバッシングが浴びせられた。

真偽の程はともかくとして、大賞を決めるにあたって作者が水嶋ヒロと分からなかったというのは確かに不自然だ。実は大賞受賞作品には2000万円の賞金とともに作品の出版が約束されている。賞金はまだしも、出版となると作家の素性を知らなかったでは済まされない。本人はもちろん、親族や関係者に不審な人物はいないか、極端なことを言えば、おかしな宗教団体や反社会集団とのつながりはないかなど、出版にあたってゴシップやスキャンダルにつながるような問題がないよう、徹底的に調べる筈だ。出版後に変なトラブルとなると、売行きにも関わるし「ポプラ社」の名前にもキズがつく。

それと大切なことは作家の力量の見極めだ。何しろ出版にかかる費用は出版社が負担するのだ。宣伝費だってそれなりにかかるだろうし、2000万円の賞金もなるべく回収したい。となると一作だけで終わってしまわれては、どう考えてもワリに合いそうにない。できればベストセラー作家に成長してもらい、出版社にとってもドル箱の存在になって欲しいと考えるのは人情だ。


島田荘司さんという推理作家がいる。御年62歳の大ベテランながら精力的に作品を発表、しかも自分を慕う若手作家とも積極的に交流し、彼らが世に出る道を開くことにも熱心だ。綾辻行人、歌野昌午、我孫子武丸といった人気推理作家の名付け親になったり、台湾、中国、タイといったアジア諸国の出版社と連携して新人作家の掘り出しに取り組んだりと、新たな才能の発掘にも余念がない。その活躍ぶりが「推理小説界のゴッドファーザー」とも称される由縁である。

推理作家の登竜門といえば「江戸川乱歩賞」だ。60年近い歴史を持ち、多くの有名作家を輩出してきた。今や国民的ベストセラー作家となった東野圭吾氏もその一人。さらにその東野氏が推理作家を志すきっかけとなったのは、氏が高校生のときに読んだ小峰元氏の乱歩賞受賞作「アルキメデスは手を汚さない」というから、乱歩賞が推理小説界に与えた影響は限りなく大きい。

島田荘司さんもアマチュアだった1981年「占星術殺人事件」(以下、占星術)で江戸川乱歩賞に挑戦している。しかし、最終選考には残ったものの、受賞は逃してしまっている。では「占星術」の出来が悪かったのか、と言われれば決してそうではない。受賞は出来なかったが後日出版され、島田さんの記念すべきデビュー作となった「占星術」は世界の推理小説史上、類を見ない独創的なトリックと、そのトリックを裏付けるためのプロットがしっかりと計算されていて、近代推理小説の金字塔と呼ぶに相応しい名作中の名作だ。それほどの名作がなぜ受賞を逃したのか?

一説によると、島田さんの作家としての継続性に異義が唱えられたという。つまり「占星術」は確かに素晴らしい。しかし、その素晴らしい作品を今後、継続して発表していける力量があるかどうか、がネックになったらしいのだ。例えば超特大のホームランを1本打った選手と、ホームランは無いけれど確実にヒットを連発できる選手と、どちらをレギュラーに選ぶだろうか。出版社としては当然、確実にヒットを打てそうな作家にチャンスを与えたいと思うだろう。

もちろん、島田さんはその後も優れた作品を世に送り出しているのだから、結局は審査側の読み違いだったのかも知れない。しかしその中に「占星術」を超える作品があったかどうか、は疑わしい。少なくとも僕が読んできた(すごく少ないけれど)中には「占星術」以上の作品は無かったような気がする。そう考えると審査員の目は正しかったのかも知れない。


その島田荘司さん、つい先般、応募者の条件を何と60歳以上にするという新たな推理作家賞のプロジェクトを立ち上げた。なぜ60歳以上なのか。それは、今まで推理作家を夢見ていた一般のサラリーマン諸氏に、定年をきっかけにしてもう一度、夢に挑戦してもらいたいという願いなのだそうだ。日本の成長期を支えてきた年代の持つ気概をもう一度、夢に託してもらいたい、というわけだ。

そしてもうひとつは作品に、大いに今までの経験を活かして欲しいという願いだ。例えば日本ホラー小説大賞を受賞した貴志祐介さんの「黒い家」という作品がある。保険金詐欺をテーマにしたサイコサスペンスだが、実は貴志さんは作家デビュー前は朝日生命保険に勤めるサラリーマンだった。作品中にも生命保険業界の裏話が多く書かれている。説明的過ぎてウザイ、なんていう人もいるけれどそれが作品に与えるリアリティや説得力は大きい。最もあまりにダークすぎて、業界にとってはイメージダウンだろうけど。もし就職活動前の学生がこれを読んだら、生命保険業界は避けてしまうかも知れない。

また、「人間の証明」など多くのベストセラーを持つ森村誠一さんは、江戸川乱歩賞受賞で作家デビューする前はホテルマンだった。初期の森村さんの作品にはホテルを舞台にしたものが多いし、ホテルマンとして多くの客と接してきた人間観察力は作家活動の大きな武器になった筈だ。

もちろん作家の人も、特殊な業界を舞台にするときはそれなりに取材をするのだろう。しかし、実際に長年勤めてきた経験はまた別物だ。表面的な取材では決して分からない独特の裏話もあるだろう。それが活かされれば、プロの作家には出せない魅力的な作品が生まれる可能性がある。島田さんの「60歳以上」という条件にはそんな思いが託されている。

しかし考えてみれば、作品はその分、自分の経験を活かせる一発勝負になってしまう。しかも60歳以上という条件であれば受賞者が決まっても、その後ベストセラー作家になって欲しいということでも無いようだ。例えそれが最初で最後になっても、作品に全身全霊をかけて取り組んで欲しい。かつての夢にもう一度賭けて、燃え尽きてしまっても構わない。審査する側も、その後にドル箱作家になってもらって甘い汁を吸わせてもらおうなどと考えた審査はしませんよ、ということだろう。

既成のプロの作家には決して出せない、素人ならではの斬新さや意外性が業界の活性化のために必要という思惑もあるだろうけれど、かつて素晴らしい作品を応募しながら「継続性」ということを疑問視されて受賞を外されてしまった島田さんの、怨念というか反骨精神がそこに見えるような気がするのは僕だけだろうか。そんな島田さんの眼から、どんな作品が選ばれるか。受賞が決まるのはまだ先の話のようだけれども今から楽しみでもある。

あ、もちろん水嶋ヒロ先生の新作も楽しみにしてますよ〜って、読んでもないのにいうなって。


  • 2020.02.08 Saturday
  • 18:38
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